2018年3月26日月曜日

にんぎょ 碧水居 ー無邪気な玩具道楽宣言ー

 「 気まぐれに人魚というこんな薄っぺらな雑誌の様なものを拵えて見ました」と書きはじめた巨泉。
 人魚は「顔が女の様で乳のあたりから下が魚体」「啼く声が小児に善く似ている」「其の肉を喰ふと無病息災で長寿する」「いつまでも艶々と若返って歳をとらない」と人魚の特徴を述べ、
「其れで皆様方とゝもに此人魚の肉を喰った様にいつまでも若々と大いに努力して此複雑なる現社会を面白く愉快に活動を続けて行きたいと思っております」と文の前段をまとめる。
 
 「複雑なる現社会」「不真面目な現社会」から隔絶した玩具趣味を面白みがあると推奨する巨泉。

 田野登先生が「昭和初期の縁起物の語りー『上方』にみる郷土玩具趣味ー(『大阪春秋』平成24年 通巻147号 ー特集 おおさかの郷土玩具ー)で「郷土玩具蒐集家である川崎巨泉は、大大阪の時代、巷に流行するモダニズムを」よそに、好事家仲間と交遊する趣味人であった。彼ら『上方』同人たちは戦時統制による窮乏生活をよそに、「上方伝統」の保存にとどまらず、縁起物を創作し新趣向を競っていた。」、彼ら趣味人たちは「緊迫する「戦局」にいかなる眼差しを投げかけていたのであろうか。『明月記』(藤原定家)にある「紅旗征戎吾が事に非ず」に似たような高踏的な厭戦気分に、この趣味人たちはひたっていたのではあるまいか。」
 
 田野先生御指摘の通り、巨泉は現社会を「複雑」「不真面目」と捉え、現社会には目もくれず、玩具趣味人たちと無邪気に仲良く楽しく過ごすことが人生第一であった。この姿勢は『人魚』創刊号の「にんぎょ」で宣言されていた。
 
 


  
 

 

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